立川の不動産屋から紹介された物件だった。本当は国分寺とか国立あたりを考えてたのだが、家賃を10万と計算していた。
「多摩川を越さないと無理ですよ」
そう言われて、そこに決めた。2LDKで駐車場込みで10万…悪くはなかった。
独身最後の砦、調布のアルカディアはあっけなく2年で幕を閉じ、バラ色の新婚生活が日野市豊田で始まろうとしていた。
1993年4月に式と入籍を予定していて、相手もその少し前に入居する手筈だった。
3月上旬、一足先に入居した私を驚かせたのは寒さだった。都内とはいえやはり23区とは違うのか、あるいは作りが鉄筋コンクリではなかったからか…とにかく寒い。
確かに暖房器具がなかった。注文したエアコンの設置予定は次の週だった。こたつがあったはずなのに見当たらないのは、前回の引越しで処分してしまったのか。
取り敢えず昨シーズン買ったスキーウェアがあった。結局後にも先にもそれ一回の使用ではあったが…よかった、役に立った。
この、結婚相手が入居するまでの数日…寒かった思い出ともう一つ記憶に蘇るのは、その頃横浜に所帯を持って暮らしていた学生時代からの親友、一緒にバンドを作ったりした友人が結婚祝いに駆けつけてくれたことだ。
数年ぶりに夜を明かして語り合ったが、何を話したのかは、あまり思い出せない。もちろん思い出話だとは思うけれど…。