先に言う。これは誤って引っ張られた話だ。
1986年、神田界隈で家電修理の仕事をしていた頃……。主にいわゆるウォークマン系の修理を一日何台こなせるかで、評価されていた。同僚と二人で、台数を稼ごうと退社時刻を過ぎても仕事を続けていた。8時を過ぎた頃、「腹減ったよね」ということで、私は一人会社にあったママチャリ(自転車)に乗って買い出しに出たのだった。
途中で警官の尋問にあったが、後ろめたい事など毛頭ないので、ノルマをこなすために残業をしてるんです、などと半ば自慢げに話をしていた。
「それはたいへんですね。ご苦労様です」
と相槌を打ってくれてもいたのだ。ところがもう一人の警官が、私の知らない所で自転車の登録No.を調べていた。
「ところで、この自転車、会社の?」
「そ、そうですよ」
あえて聞かれると自信がない。
彼らが豹変したのは、そこからだった。いきなり犯罪者扱いだ。
「おい、嘘つくな!一緒に来い!」
連れてこられたのが、万世橋警察署。どうも登録してある名前が会社ではなかったようだ。
取調室に入るのは2回目だが、1回目は新宿警察で、これは被害者だった。今回は容疑者だ。
「お前の会社は、泥棒をするのか!」
そういって、机をドンドンと叩く。ドラマと一緒だ。犯罪者になりたくはないが、会社をかばいたい気持ちもあって、ストレートに言葉が出ない。
数分後取調官が、一旦退席してまた戻ってきた。この時は普通の人に戻っていた。
「お宅の会社の社長に電話したら、知り合いからもらったっていうんだな……ちゃんと登録しとかないから……」とお茶を濁して消えた。
私をしょっぴいた警官も現場に戻ったのか、姿が見えなかった。
自転車を返してもらった別の警官に、
「この辺に夜食買えそうな所、ないですか?」
というくらいが当時の私のせめてもの反抗だった。内心は、早くそこを去りたい、無実で良かった、そういう思いだった。
ちなみにこの1986年5月頃、ダイアナ妃が来日してる最中だった。警察も躍起になってたのだろうか。
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